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母となる喜び、誇りをもってほしい

平井産婦人科医院

平井 博

BeMam vol.16

 最近、より良いお産、楽なお産を求める余り、医療が過剰になったり、目新しい分娩方法などが偏重される傾向もあるようです。しかし、本来、分娩はごく自然な生殖生理です。動物の中でヒトの生殖だけが特別なものでは決してありません。

 かといって、自然のままに昔同様のお産で良いというものでもありません。生殖には必ず自然淘汰があり、医療はこの自然淘汰への挑戦です。妊娠、分娩時に発生する母体や胎児の異常、未熟児、奇形児などを、医療がどこまで救えるかということです。

 一方では、より良いお産、より楽なお産へのアプローチも望まれます。そのためには、近代医学のもとに安全性が確立された上で、十分に自然の摂理をわきまえていることが肝要です。さもなければ、思わぬトラブルを誘うことになるでしょう。

 さて、当医院のある京都市伏見は、淀川が流れ、大阪から京都に入る要衝として秀吉の時代に栄え、何代にもわたり人が生活し、出産してきました。その地に父が産婦人科を開業し、私が後を継ぎました。

 本院では、昔からの助産婦さんが今も活躍しています。ベテランの助産婦さんは地域社会に明るく、ほとんどの妊婦さんとは顔見知りで、そのお母さんやおばあさんも同じ助産婦さんがお世話したケースもあります。それだけに、妊婦さんも安心していろいろ相談できるようです。

 出産は病気ではないですから、8割方の妊婦さんは医師の手助けを必要としません。ですから、当医院では助産婦さんが介助し、私は横で見ているだけの感もあります。とはいえ、医師には「安全なお産」に対する責任がありますから、十分な管理体制のもと、必ず私が立ち会います。

 私から妊婦さんにお願いしたいのは「妊娠している喜び、子を育む誇りを持ってほしい」ということです。女性の社会進出がよく取り上げられますが、もう少し若い女性に「子育ての良さ」を知ってほしいですね。

 どんなに懸命に働いて、社会的な業績を残したところで、生物学的に見れば、それは1個の点にすぎない。けれども子どもをつくり、その子が子どもをつくっていく限り、次世代へと自分の遺伝子(DNA)が伝えられていく。太古の昔から現代へ、そして未来へと遺伝子は受け継がれているのです。子を宿しているということは、あなたがこの地球上に存在した証しを残すことになるのです。

 お産は自然の摂理、ヒトの原点です。このことを、私たちは、もう一度考え直す必要があると思います。

 私も、成人した子供が3人(2男・1女)おりまして、一緒に酒を飲んだりしますが、この時はなにものにも代えがたい充実感がありますね。つくづく生きてて良かったと感じます。この喜びは、家庭を築き、子を産み育ててこそのものだと深く思います。

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