より安全な出産を
私が昭和28年にここで開業して以来、44年あまりの月日がたちます。その間、何千人とお産を扱ってきました。最近では、診療していると、ここで最初に生まれた方が結婚して子どもを産んで、そのお子さんがまた妊娠してここで子どもを産む、ということもあり、そのようなうれしい声とともに時代の流れを感じています。そんな私から、お母さんへのアドバイスとしては、やはり「健診はしっかり受けてください」ということです。
ご存知のように今は少子化の時代ですから、少ししか生まない代わりにみなさん完璧なお産を求めます。
妊婦さんにとっては、せっかく子どもを授かったのですから、10か月間を順調に乗り切り、みなさん無事に産んでいただきたい。
また、開業当時、ここ都留市に市立病院もなく、診療をしていても高次病院への転送ということは考えられず、手術から処置から、何から何まで自分でしなければなりませんでした。それは今の時代に置き換えてみると、妊婦さんにとってはリスクが大変大きかったということです。
医療の面でも、出産は、母児両方の生命にかかわることですから、どんな些細なことでも、医療事故などはあってはいけません。しっかりした健診を通して、妊婦さんには最善のお産をしていただくよう手助けをするのが私たちの役目です。また、あらかじめリスクを持った妊婦さんはもちろんのこと、急変に対しては高次病院へ速やかに転送させていただき、二つの生命の安全を期しております。
その場合は、健診を通して妊婦さんとコミュニケーションがとれておりますが、中には「先生、とり上げてくれないんですか?」と残念がられる方もいらっしゃいますが、より安全なお産をしていただくためにも、転ばぬ先の杖(つえ)といいましょうか、人事を尽して天命を待つという気持ちで、産婦の安全を第一に考えております。
また、こうした母体搬送システムや医療に関する勉強会など、地元の産婦人科のドクターが普段から集まり将来のために研究し合っているのです。
しっかりしたしつけを
それからもう一つ、今のお母さんに伝えたいことは、「自分が幸せになるために努力する、もちろん、それは大切でしょうけれど、他人の痛みを知って、自分の幸せを分けてあげられる心を持って欲しい。というのは、妊娠・出産には必ず育児〜子育てが続きますから、お子さんへの人間としてのしつけをしっかりしていって欲しい」ということです。
学校は勉強をしたり、ものを覚える所ですから、お母さん、お父さんが、ちゃんとした育児を、就学前に、しっかりしてあげてください。
今の世の中、報道番組を見ていても、方向として人の痛みをわからないことから起こる事件が、大変多くなってきていることからも、しっかりしたしつけをして欲しいですね。
知ってほしい「おぎゃー献金」
私は山梨県の日本母性保護産婦人科医会のおぎゃー献金担当理事を(ここ10年ぐらい)しています。
おぎゃー献金のルーツ、意昧は『健康な赤ちゃんを産んだお母さんが、その喜びと、感動の気持ちをハンディキャップを背負ったお子さんにも少しでも分けてあげてください』というものです。
私も、献金のミニパンフをママさんクラス(母親学級)で妊婦さんに紹介しているのですが、その席上、おぎゃー献金を知っていた人?とお聞きしても、あまり知っている人がいないんですよ。あらー、こんなに知らない人がいるのかしらって思います。
献金は、あくまでもお母さま方の自主性によるものですが、その内容を知らせるのには、口コミやPRが必要ですから、その方法もしっかり考えないといけないでしょうし、その場合もより理解を得るための正しい工夫も必要です。各産婦人科病・医院の窓口で実施されている献金ですが、その成果が上がっている病・医院では、やはりドクターはじめ婦長さんや助産婦さん、看護婦さんがしっかりその意図を妊婦さんに紹介し、頑張っている所が多いようです。
このような運動を全国的に展開・運営するに当たっては、毎年、全国献金担当者連絡会が開かれ、全国47都道府県から担当者が集まります。その席上、献金役員たちと様々な連絡があり、各県における献金額も表示され、(献金の本質はあくまでもその金額の大小ではありませんが)おのずと順位もわかります。担当者も、さすがに全国順位で最後の方だと頑張ろうとし、私も山梨県が最後の方だった時には、自らお役に立てばと、義理でかけていた生命保険が満期になった時に100万円を献金しました。その年は上位の方に山梨県の名があり、ホッとした喜びとともに、施設でもお役に立っているのだと充実感を得たものです。
今現在、全国の産婦人科病・医院の全てが献金を推進しているわけではありませんが、全国から集まった献金は、申請のあった施設に厳正な審査のもと配分されています。
平成8年1月、厳寒の早朝に起こった神戸・淡路大震災の時にもいち早く5000万円を寄付、送金し、飢えと寒さに途方に暮れていた施設の子どもたちに大変喜ばれました。
また、健康な赤ちゃんの出産のための研究費として、研究機関に配分され、人類のために大いに貢献しています。献金にご協力してくだされば幸いです。
子育ての本を出版して
最近、子育ての本を出版しました。以前から、当院でそのような講座を持ってお母さん方にお話していましたが、話だけですと消えてしまうことがあり、本という形にしてみたんです。
育児、子育てというのは、各家庭できめ細かくしていただき、人間としての心構え、道徳、やってはいけないことの判断を小さい時からしっかりしつけておいて欲しいのです。
喧曄にしても、どこまでやっていいのか、「もうここまでで、これ以上はダメですよ」という、その限界を今の子は知らないものですから、中には殺してしまったとか。「まいった」と言えば、やめることができる判断。昔はそれを、子ども社会の中で、上級生が危険を察知して的確なアドバイスをして「もうやめろ!」と言って、やめさせていた。そのような子どもなりの社会経験からも、判断力が身についていた。
その限度やけじめが今の子にはわかりづらい世の中になっており、それゆえ、知らない子も増えているような気がします。
「いじめ」の問題も昔から大なり小なりありましたが、その対照にされた小学生や中学生が、それを苦に自殺するなどということは、ほとんどなかったと思います。
遊び方も変わってきていますから、いろいろな条件からでしょうか、確かに今の時代は、お母さんにとってもお子さんにとっても心のバランスが取りにくい時代です。
次の時代にやさしさと思いやりの心を伝えるというのが、おぎゃー献金の目的でありますが、この気持ちこそが、世界の真の平和をもたらすと思います。この辺のことは是非、皆で考えて実行したいものです。