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妊婦さんと検診

国立札幌病院 名誉院長

兼元敏隆 先生

BeMam vol.000

 私の専門はガン

昭和46年にそれまでの総合病院に地方がんセンター機能が付加されたことから、私の医師としての仕事のほとんどは、産婦人科医療の中でもガンの分野を専門としてまいりました。ガンの発生に若年化が見られるといっても、多くは成人病といわれるように若い人は少ないですから、妊婦さんとのかかわりは一般的なことではありません。

しかし広い医療現場では、強いつわりの妊婦さんと思った方に胃ガンが見つかったり、乳ガンや白血病の治療中に妊娠が成立したりすることもあり、どのように対応するか悩む場面が現実の問題としてあります。婦人科のガンでいちばん問題になるのは、子宮頸ガンとのかかわりで、ガン検診の普及と高齢出産傾向とのからみで多くなってきました。他の卵巣ガンは、発生頻度が低いですし、子宮体ガンは妊娠が成立しがたいのでまずありません。さらに他臓器のガン治療後の方から妊娠についての相談も多くなってまいりました。 

ガンの早期発見と検診率をあげる方向から、妊娠というプライドをもつて来院される機会は、その後のガン検診の習慣を維持していただくためにも、よいチャンスとなるわけです。 

一般的には30歳以上の方には年に1回の受診とガン検査を医師がすすめています。これは顕微鏡での判定になるので、ごく早期のガンだと自己採取では見逃してしまうからですが、お母さん方にとっても出産の高齢化傾向があり、ちょうど30歳ぐらいに初めてチャレンジする方もおられますから、そういった方には必ずチェックをするようにしています。 

もしガンが発見されたら

検査によって、もし妊婦さんにガンが発見された場合、結局、ガンをおいながら子どもをどうするかという問題になります。たとえば、もうすぐお産するというようなときに見つかった、ごく初期のガンなら産後にガンを治療すればよいのですから問題はありません。ところが、妊娠したばかりなのにガンが進んでいた場合は、出産までの10か月を待てるのかという問題になります。 

最悪の場合、

「子どもはあきらめてください」

「お母さんの命を救う方が先です」ということもあります。

このようなケースを含め、ガンと妊娠が同時に見つかった例のガンの進み具合(早期・進行)と妊娠(分娩)の時期(初・後期)から、おおまかに四つのフィールドに当てはめることが出来ます。 

そして、この背景から導き出される治療の選択肢を頭の中で整理し、結論づけをするわけです。(a.中絶しがん治療を優先する b.早産させ(生存)できるだけ早く癌治療を c.分娩後に癌治療に移行する d.妊娠中でも癌治療を開始する e.新しい生命を中心に母体も自然の流れに f.その他)。もちろん、個々のガンの発生場所による例外がありますので、f.その他のようにケースバイケースといったものや、さらに患者さんの宗教的背景や強い希望などの心情でeを考慮に入れることさえあり得るわけです。

健診の大切さ

妊娠して病院に来たことを機会に、婦人病の検診をすることは、とても大事なことですが、健常者であることが前提で妊娠した方の中にも、クラミジアなどの感染症を持っている場合が結構あります。 

妊娠して『いい家庭』を営んでおられるのに、検査の結果「あなたはクラミジアをお持ちです」ということになると、ではクラミジアの感染源は何だろうという話になってきます。せっかくの幸せのとき、病気ばかり見つけても、その後の部分の対応をしっかりしないと人間関係がグチャグチャになってしまいますから難しいですね。

実際に情報をとればとるほどいろいろなことが出てくるのですが、私たち医師もあまり神経質になり過ぎないよう、妊娠とその他の疾患というものをどれだけ抽出していくか、それがどれだけ子どもにつながるかで判断していくわけです。

たとえば「ウイルス性だから出産の時は子どもに負荷をかけないように帝王切開で産みましょう」といった判断のように。そして、あとはお産が終わってから将来身体をこわさず実りある老後へと結びつくために、その疾患を治します。 

お父さまへ

私は今風の人間ではないので、妊婦さんのご主人にアドバイスというのはあまり気がすすみません。その分野では専門の医師がいますし、その医師を信頼していれば心配いりませんから。むしろ産んだ後の子育てについて、今から勉強しておくことをすすめます。出産は一時、しかし子育てはそうではありません。社会にしっかり出せるようにして、いつかは子離れするものです。

きっかけは自分の子どもだという喜びもあるでしょうけど、たとえ他人の子どもであったとしても、世の中に出た時、まわりに迷惑をかけないような人間に育ててあげることが大切だと思っています。とくに世の男性族にはそう考えていてほしいのです。あとは自分の奥さんとのよい関係〜教育。

女性からはお産に参加してほしいなど、いろいろな要求があるでしょう。今の世の中、男性も産休がとれるようになりつつありますから、ふたりの間でできる範囲でおやりになればよいと思います。 

最後に、お産への注意

一般の妊婦さんのなかには、メディアでいろいろいわれているので、

「医者が少し『つくったお産』をしているのではないか?」

「介助が多過ぎるのではないか?」

といったムードが出ているようです。そして助産院などの陣痛を誘発する薬等を使わないところは自然分娩なので安全だという考えの方もいます。

けれども、どんなお産でも危険を持っているということだけは、はっきりお伝えしておかなければなりません。薬を使ったから危ないということではなく、お産というのはもともと危ないものですから、どんな異常にも緊急対応ができるところで出産するのが安全でしょう。今の時代、どうも助産所か病院かで比較されがちですが、そのどちらかを否定する云々ではなく、絶対安全なお産ができるようスクリーニング(適格審査)をして決めていただきたいと思います。

たとえば、初産ではあらゆる緊急対応ができる状態で産むのがいいと思います。そして前回の妊娠・分娩が全く異常なく、2年以内で再度お産を計画するような場合には、希望により水中出産でもよいでしょうし、「お好きになさい」という状態ですから、そういった方々には助産所に行っていただいてもいいんです。これらのことが両者の間できちんと話し合われていれば、妊婦さんもうまく分別ができると思います。

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