世間では少子化が問題になっている昨今ですが、滋賀県の出生率は毎年11%前後と高く、われわれ産科医はこれに応えるべく、小児科医と協力してより良い周産期医療を目指して、日夜頑張っています。
昭和60年代の滋賀県の周産期死亡率は高く、多産多死でした。しかし、平成2年に先輩諸先生方のご努力と県の援助で、大津赤十字病院にPICU(周産期集中治療施設)とNICU(新生児集中治療施設)ができ、次いで平成3年からは、新生児専用ドクターカーが動き出し、周産期死亡率も低くなり多産少死になってきました。
また、今年5月から、湖北地区の長浜市立病院のPICUとNICUが動き出し、地域に密着した、より高度な周産期医療ができるものと期待しています。まだ不足している周産期施設を効率よく利用するため、行政にお願いして、「滋賀県周産期救急医療援助システム運営協議会」をつくり、円滑な母体、新生児搬送に努めており、安心してお産していただけるよう、県民の期待に応えられるようになってきています。
私が大津赤十字病院に勤め始めてから今年で早14年になります。私は就任当初から母体搬送の重要性を訴え続けてきましたので、開業の先生方には嫌われることもあったかと思います。超未熟児(1000g未満)を出生したお母さん方もご存じないかと思いますが、退院して、そのお母さんの胸に抱かれるまでにかかる総医療費は、1000万円ぐらいになります。そして、児は4か月ぐらい入院し、その間NICUの先生方と看護婦さんの献身的努力があるのです。
超未熟児、極小未熟児の出生を少しでも減らすには、異常妊娠を早期に発見して、良いタイミングで母体搬送していただき、PICUで児の状態が良ければ、妊娠をできるだけ継続することだと思います。したがって、私の診療では異常妊娠の妊婦さんとか元異常妊娠の妊婦さんと接することが多くなります。
朝、病院に行ったら、まず6床のPICUの患者さん達を廻診することから始まります。PICU入院妊婦さんのなかには、自分がお母さんになるという意識をしっかり持ち、妊娠中、あのときにもっと注意していたら、このようにならなかったのではないかと思う人もいます。安静にして腕には持続点滴をし、妊娠継続を目指しての苦しい入院生活だと思います。
この入院中の苦しみと未熟児出生の不安などの精神的サポートにも助産婦さん達と一緒に努め、このなかから、私どもの努力で母性が目覚めてきた若いお母さんも多いように思います。
残念ながら、未熟児を出産して退院した新米お母さんが、今度は足繁くNICUに通い、やっと児が退院でき、その際元気な児を抱いて、私どもの詰所に立ち寄る時は、私どもにとっては何ごとにもかえられない、このうえない喜びです。どうかこの子が今後も健やかに育つようにと祈らずにはいられません。
近年、女性の高学歴化、社会進出など、女性の生き方の価値観が変わってきているのは事実です。30代後半で妊娠する女性も今後多くなってくると思います。このような妊婦さんの不安を少しでも解消するため、私どもは出生前診断に努めるとともに、母親教室の充実にも努めています。
私は古い考えかもしれませんが、女性の職業の中で、母親業が一番すばらしい職業だと思っています。それを少しでもお手伝いできたらと、今日も走り廻っています。