現代は情報化の時代といいますが、ある意味では情報禍ではないでしょうか。妊娠・出産に関しても情報は氾濫しています。でも妊婦さんたちが本当に聞きたいと思っていることは、案外と小さな扱いか、とりあげないことも多いのではと思います。かといって、医師の側から見ると、妊婦さんを取り巻く社会環境がわからない、本人の考え方がわからないなどで、妊婦さんの気持ちになって考えようとしても、医学的に対処するのがやはり限界なのです。妊婦さんは、妊娠中あるいは分娩中でもいろいろと考え、心配事をためているのではないかと思います。
私も9年前になりますが入院をしました。しかし、プロである私でも医者に聞きたいことを全部聞けたわけではありません。
その気持ちを察しても、私たち医者は妊婦さんからの発言がない限り、本当の心配事はわからないのです。「こんな小さなこと」とか「忙しそうで」と考えないで、90年代の妊婦さんは、もっと自己主張を持って、決して昔のように「黙って医者の言うことを聞くいい患者」になる必要はないのです。
自分の聞きたいことをはっきり医師に伝える、つまり良い自己主張をされることで、大病院の短い診療時間でも医師と話せないという不満は残らないと思います。
コミュニケーションの一例をあげてみましょう。妊婦の皆さんはそれぞれに母子手帳をお持ちでしょう。母子手帳には、医師に聞きたいことの欄や余白のメモ欄があります。的確な答が欲しい時は、その欄を活用してはどうでしょうか。もしメモがあれば、私は診療に入る前にそれを見て、そこをポイントにしてお話をいたしますが・・・。
ところで妊婦さんの皆さんは、情報のありあまるあまり、妊娠・出産をファッション的にとらえてはいませんか。
例えば、妊娠までスポーツをしていなかったのに突然始めてみたり、胎教のためといって1日中音楽漬になっていたり。しかしちょっと考えてください。妊娠前まで美容のためにウエイトコントロールをしていたりすると、貧血が残っている場合に往々にしてあります。それを残してたまたま妊娠し、そのうえスポーツをするのは、あまりにリスキーです。しかし、実際はそういう妊婦さんこそが妊娠中の運動をしてもらいたい人なのです。それも毎日。
もっとも簡単な運動は、意識してリズムをとり、腰を伸ばしてのマタニティウォーキング、壁と柱にせをつけて伸びをしてみたり、洗い台に手をついての屈伸、あぐらをかいてみるなど、家事の途中でもこのような短い運動の時間は絶対にとれると思います。スポーツとして妊婦水泳をするにしても、水泳だけでなく、軽い運動を毎日少しずつして、基礎体力の充実を図りましょう。音楽にしても、一日中ではなくまったく音のない静かな時間を持ってみることも必要と思います。
食事もカルシュウムが足りないというと、大量に一時期食べるのではなく、単身赴任者用の小魚の佃煮を毎日一口ずつでも食べる、そんな毎日の積み重ねが、安産につながっていきます。毎日の積み重ねをもっと大切にしてください。
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