ある先生と談話したときのことですが、老朽して汚い建物の病院が多く、待合室ひとつとっても妊婦さん同士がとてもコミュニケーションをとれるような場ではないのでは?、との話題になりました。
私自身、産婦人科は、できるだけ妊婦さんのニーズに合わせて、万一のことがないように万全の体制を整えることが一番と、診療に優れた機械を取り入れることを優先して「わが道を行く」でやってきました。
しかし、産婦人科に来るのは今どきの若い女性ですから、「アメニティ」を取り込み、彼女たちに受け入れられる環境を整えてあげることも必要です。
たとえば、トイレが暗くて汚かったりしたら、印象はよくありません。また若い女性は、老先生よりも若先生の方を好みますから、医師の若返りも必要かもしれません。(笑)
当医院でも、現在は私が院長を務めていますが、今後はともに働く副院長で実娘のマキ(万紀子先生)に多くを受け継いでもらうことになるでしょう。その時に良い環境で引き継いでもらいたい。また、娘に苦労はさせたくないということからも、2年前に将来を見越して、アメニティを考慮に入れた産院に改築しました。
彼女もたいへん前向きな性格ですから、フレッシュな感覚を活かして若い妊婦さんたちのために頑張っています。改築後は、院内も明るく、妊婦さんたちにも好印象です。
やはり、何と言っても妊婦さんは女性。メンタルな部分でも、実際に3人の出産経験のある彼女の診療は、信頼と親近感があります。
院内では出産前に母親教室でビデオをお見せするんですが、そのビデオにも、彼女が第2子を出産した時に撮影したものを使っているため、とてもリアリティがあって、それに実演した彼女がこうして診察をしているわけですから注目度とともに親しみも湧き、とても理解は深まります。
たまたま、娘の場合は主人の仕事の関係上、2人の子どもとともに渡米、第3子をアメリカで出産していることもあり、出産の現場の日米の違いを体験しており、本人も、「とても楽しく勉強させていただいた」と話しています。
たしかに出産の違いひとつとってみても、むこうの妊婦さんは、お産の痛みをじっとこらえるより発散してしまう方ですから、無痛分娩はごく当たり前のことになっています。そのため、麻酔学はかなり発達していますし、母親も退院した翌日には職場復帰するというたくましさも備えているようです。
とかく、日本人は国際的な環境の中で、内にこもって閉鎖的になってしまう悪い癖があるとも言われていますが、彼女の場合はすすんでアメリカ人のなかに入って行き、いろいろなことを得ている。
私は、そんなたのもしい娘をライバルだと思っているんです。
まだまだ負けたくないから、できる限り頑張って行きたいと思いながらも、これからは新しい世代が活躍し、妊婦さんのニーズにより応えてゆく時代ですから、そういった意味では、いよいよという時の引き継ぎは美しくありたいと思っています。