お母さん方にお話しすることとして、お産に対する取り組み方が、ここ十年でずいぶん模様変わりしたということがあります。最近の医学、医療器具の進歩によって、開業医の先生もそういうものを積極的に取り入れ、より安全なお産を心がけていますから、以前、お子さんをたくさん産んでいた時代と比べても、新生児死亡や、お産におけるお母さんへの障害や危険は激減しています。
これにはやはり、医学の進歩、開業医の医学的レベルアップが基本にある訳ですが、その背景には全国の産婦人科医の集まりである日母(社団法人日本母性保護産婦人科医会)が非常に協力して、会員のレベルアップに努めてきたことがあります。医学の進歩に対し、必ず講習会やいろいろな勉強会を開き、医療技術の進歩についていくようにと、日母が組織だって全国の産婦人科の先生に指導してきた訳です。
そうした組織だった動きで、新生児死亡がグーンと下がり、今の小児科の先生も関与して、未熟児医療など、育てる技術も進歩してきています。
ところが最近、それがあまり行き渡ったために、妊婦さんの間で「お産は全て安全だ」と考える風潮が強くなってきてしまったように感じます。
この流れには厳しい注意が必要です。出産そのものが母親と赤ちゃんの両方の生命をあずかっているわけですから、そのお母さんにも健全なお母さんもいらっしゃれば、中には持病をもったお母さんもいらっしゃる。生まれつきの先天股脱だとか、産道に赤ちゃんを通すだけの充分な余裕がなかったり、糖尿病があったり、腎臓病があったり、それにつけ加え、妊娠中毒症などという病気もある。そのように、少しハンディのあるお母さんも、おしなべて皆が「お産は安全で当然だ」という認識から、病気や異常への厳しさがちょっと薄れてきているのでは?と気になっています。
現状を見ても、脳性マヒを無くすように最大限に努力していても、まだ0にはならない。妊婦さんの死亡率も新生児の死亡率もグーンと下がったけど、ある程度のところまで行くと、横ばいになってしまう。いくら努力しても人間のからだ、根本は生物ということがあるから、生物が出産するということについては、そのところにお母さんにいろいろ問題がある場合もあれば、生まれつき赤ちゃんに先天的に充分丈夫でない要因があることもある。そのようないろいろなリスクのファクターがある訳ですが、それらがちょっと忘れられているんじゃないかなって気がするんです。
そのような中で、産婦人科は今、妊娠中にいろいろと監視するようになってきました。妊娠中の管理というものがうまく行く様になってきたのです。それには超音波だとか、医療機械、MEという機械の発達、検査技術の進歩、そして、妊娠が末期になってくると、赤ちゃんを監視する分娩監視装置、いわゆる胎児心拍の監視装置というものが出てきて、妊娠後半期のお腹の中での赤ちゃんの健康状態というものがチェックできる様になってきました。そういうものが妊娠末期からお産に利用されることで、赤ちゃんのお腹の中での疲れている状態だとか、危険な因子がわかる様になってきたんです。今までだったら、当然わかり得ないことがわかる様になってきたことで、ずいぶん助かる様になってきた。
しかし、お腹の中の赤ちゃんは急に変化することがありますから、まだそれでも助けられないことかあるのが現実です。そういうことでまだお産というのは100%安全ではないということを知っておいてほしいのです。