私から妊婦さんへのメッセージは、お産に対し、もう少し「自分はこう産みたいんだ」という姿勢を持ってほしい。「自分に主体性を持ち、自己主張のできるお産」をしていただきたいということです。
もちろん、それがいいお産へとつながるからです。
いまから10年前のことになりますが、ここ地元広島力ープ(プロ野球)の外人選手の奥さんが妊娠され、折しも出産の時期がプロ野球開幕の時期と重なっていたため、できたら日本で産みたいということでした。選手も球団側も日本で産んでほしいわけです。しかし、そのためには条件がありました。奥さんが「ラマーズ法で産みたい。もしそれをやっているところが無ければ主人ともども帰国する」ということなのです。
その話を受け、私もその頃たまたまラマーズの原著を読む機会に恵まれていたものですから、読んでいくうちにちょうどその方法がおもしろいと感じていたんです。
「夫が立ち会って、そこに医者と妊婦さんがいて、3人が分娩室にはいることによって、実にすばらしいお産をした。リラックスして笑いながらお産ができた」ということで、これは本当にいいじゃないかと。「何と言っても最大の二人の絆は夫婦ですが、そこに介在する医者、その3人が一体となってやれば、こんなにいいお産はないんじゃないか」って。
はたして、そのアメリカ人、デュプリ選手の練習中に奥さんの陣痛は始まり入院、彼も駆けつけました。分娩室に3人がそろった時、私は奥さんに「上手なラマーズをやってみようね」という話をしまして、それはそれはいいお産をしてくれました。
ラマーズ法というのは、「夫立ち会いで、薬を使わず、できるだけ自然な方法で産む。あとは人間と人間との信頼関係。いかに精神的な統一性を図るか、そしてあわてない。時間が来ればお産になる。それをいたずらに早くしたりしない」というものです。
さて、ラマーズはともかく、そこで妊婦さんに知ってほしいことは、お産は自分がするということ。産ませてもらうのではなく、自分で産むということです。
私たち医師は、その方向が間違っていた時、「ちょっとこうしてごらんなさい。そうするとあなたのしんどいお産も少し楽になりますよ」と声をかけてあげたり、診察を通し、いいお産に向かうようにアドバイスし(お産には異常や、危険が伴いますからその対応も考えながら)介助してゆきます。もし、恐怖感からパニックを起こす妊婦さんがいたら、かえって筋肉が硬直して時間がかかることが多いですから、できるだけそうした不安・恐怖感を取り除いてあげ、お産をスムースにしてあげる。
産ませてもらうのではなく、自分が産むという姿勢。そのためには妊娠初期のうちから、自分自身こういうお産がしたいんだという各個たる信念を持っていただき、健診や母親学級にも望んでいただく。そこからしっかりした自己管理をしてイメージづくりをし、たとえば出産の時には体重は何キロで、こういうスタイルで、というように、積極的にお産にかかわってみる。
アメニティーの部分でとてもいい病・医院もできていますが、最終的にはいいお産をして健康な赤ちゃんを抱いて帰ることが一番の幸せなのですから。
きっと、そうしたお母さんの姿勢は、それからの育児にもいい形でつながって行くものと信じています。