「いかに早く異常を見つけ、それに的確に対応するか」
それが私ども産婦人科に課せられたテーマ、産婦人科医の役目です。そのためには、健診による異常の早期発見とともに、異常があった場合の母体搬送が大切な役割を果たします。通常、妊婦さんの8割が正常な自然分娩をしていますが、妊娠中毒症や羊水過多、あるいは胎盤が下の方についているなどの異常の場合には、時には二次病院にいち早く母体の搬送をしなければなりません。
信頼の場である病・医院でも、お産が少なくなってスタッフの問題とかドクターの問題などで分娩を扱わない診療所も多くなり、できる範囲のことをしていますが、それ以上のことを無理にやろうとして事故につながるケースもあります。そのような場合は、いち早く後方支援との連携プレー、母体搬送をする必要があります。
また、妊娠してはじめての診察時にインフォームド・コンセントをしっかり行なって、いろいろな患者のリスク・ファクターを確認することも大切です。たとえば心臓病や高血圧、糖尿病、腎臓病など。そして、里帰り出産の場合、今までの経過を里帰り先の医師にしっかり報告する。高年初産婦の方はハイリスク、あるいは18歳以下の若年妊娠でも異常が起こりやすいので、しっかり健診を受け、検査をしていくことが大切です。
三重県の産婦人科では、妊娠初期にはじめての妊娠の方には血液型とRH、梅毒反応、トキソプラズマ症、クラミジア感染症(最近妊婦さんの13%位がこれに感染。赤ちゃんが生まれた時にクラミジア結膜炎とか、肺炎を起こしている)、ATL=成人T細胞白血病ウィルス(お母さんがこれを持っていると、母乳を飲ませると赤ちゃんか白血病になる)とか、あとはHIV=エイズ。それと貧血、C型肝炎(赤ちゃんにも感染する)、B型肝炎の検査を行なっています。また高齢初産婦(35才以上)か以前に染色体異常の認められた妊婦さんには5か月ぐらいで羊水検査をおすすめしております。このような検査を必ずして、異常のないように注意するわけです。
最近は少子化時代で、おまけにグルメ志向が強いのか、産婦人科には1に建物、2に食事、3〜4がなくて5にドクターなどというのだそうです。
機械も発達し、設備もいいものがそろっていますから、どこで生んでも同じだろう。ならばきれいな所、おいしいご飯の所がいいじゃないか、ということです。
安心できるお産、快適なお産を建物や食事に頼ってしまう傾向があるんですね。分娩安全神話というものができてしまったものですから、何かあった時には医療訴訟になってしまう-。
日本医師会に上ってくる医療訴訟の実に30%は産婦人科によるものです。医師の方も気をつけなければなりませんが、妊婦さんの方も妊娠中の健康管理には十分気をつけていただきたいですね。
そうして、より安全で快適な、悔いのないお産をしていただきたいのです。
核家族化の進んだ今日、夫婦でいいお産を考え、とくに女性は妊娠中、どうしてもヒステリックになりやすいですから、ご主人もできるだけ奥さんの手助けをしてあげ、産後も一緒に育児に参加していくということが多くなると思います。その意昧では男性にも頑張ってもらわないといけませんね。